InkscapeでSVG画像からBGR(ガーバー)ファイルに変換して卓上CNCで基板を削る②


2022/04/01
蛸壺の中の工作室|InkscapeでSVG画像からBGR(ガーバー)ファイルに変換して卓上CNCで基板を削る②

前回はInkscapeで描いたSVGパスをフリーウェアを使ってからガーバーフォーマットに変換するまでの概論を説明していきました。

今回は前の回で出力したガーバーデータを元にアイソレーション加工でパスの縁取りを削っていこうと思います。


ガーバーファイルとg-codeファイルの違いを理解する

今回はKiCADから出力されたガーバーファイルでは無いので、CNCで加工前にガーバーフォーマットをより理解しておく必要があります。

ベクター画像から変換したガーバーファイルをg-codeへ変換する際に、前もって知っておきたいポイントをいくつかまとめておきましょう。

ガーバー形式とg-code形式の違い

ガーバーとg-codeがどのように違うのかを意識するところから初めましょう。

合同会社タコスキングダム|蛸壺の中の工作室

ガーバーフォーマットは、座標と座標の繋がりを定義しているファイルになります。

その意味ではベクター画像と扱いが変わりませんが、PCB業界好まれて利用される画像描画フォーマットです。

PCBの製造プロセスでは通常感光式のフォトリソグラフィーが主流ですので、ガーバーフォーマットは機械加工などはそもそも念頭に置かれていません。

そのため、ガーバーフォーマットから機械CNC加工で好まれて使われるg-code形式へ変換する必要があります。

FlatCAMなどのCAMソフトは、ガーバーフォーマットを受け取ってg-codeへ変換する際に、
ガーバーで描いたパスで削るのではなく、パスを残すように読み替えられます。

ということでガーバーファイルからg-codeファイルに変換するときの大きなルールとして、

            1. ガーバーで閉じたパスは島として残す
2. ガーバーで閉じていないパスも残して周りを削る
        
ということです。

この変換規則を知っていないと、CNCでベクター画像をそのまま見た感じに切削加工してくれない...となるわけです。

V字カッターの有効ツール径と加工深さを決める方法

デザインとしてSVG画像から変換したガーバーファイルの形状をより細かい造形まで制御したいのであれば、まず
V字型彫刻ビットの加工溝をしっかり計算してあげる必要があります。

ということでV字カッターの加工諸元の見積もりを少し復習してみます。

まず、おおよそV字カッターの先端は以下のような構造になっています。

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ここで模式図中においた諸元は以下のようになります。

            d: 先端径、チップ径
    その名の通り、先端部分の直径
θ: 刃角度
    両端の刃のエッジ部分のなす角度
D*: 有効ツール径
    計算パラメータとしてFlatCAMにツール寸法として入力する値
L: 加工深さ
    V字カッターで唯一の調整パラメータ
        
となります。

要は狙った加工溝幅の
DD^\astを想定した場合、どの程度の加工深さ・LLを設定するかは以下の換算式で計算することになります。

D=d+2Ltanθ2D^\ast = d + 2L\tan\frac{\theta}{2}Eq. (V字カッターの加工深さ)

関数電卓等がないと少々計算が面倒な式です。

とはいえ、わざわざ関数電卓を叩かずとも、FlatCAMの機能に
[V-Shape Tool Calculator]いう機能が付属していますので、これを利用します。

前回に引き続きアイソレーション加工に用いるVカッターの諸元は、

            シャンク径: 3.175mm
刃角度: 10度
エッジ径切削: 0.1 mm
        
を使うとします。

FlatCAMのツールから電卓のアイコンをクリックすると、
[Calulators]のペインが開きます。

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画面中程に
[V-Shape Tool Calculator]があるので、Vカッターの諸元のうちチップ径は0.1mm、刃角度は10度を固定します。

それでツール径(Tool Diameter)の値を見ながら、加工深さ(Cut Z)を少しずつ変化させていきます。

だいたい狙いのツール径(例えば0.2mm)になったときの加工深さをメモしておきましょう。

ベクター画像上のパスを溝として削る方法を考える

上記で説明して来たように、ベクター画像からg-codeに変換すると、ベクター画像のパス自身は削られることなく残されて、その周りが削られるようになってしまいます。

画像が掘れればいいや、と仕上がりに拘る必要がなれけば考慮する必要はありませんが、そうではなくパスそのものを綺麗に除去したい場合、もう少し切削加工条件に頭をひねることになります。

V字カッターが前提の加工となる場合、FlatCAM側には「狭い」加工範囲になるように見せかけておいて、実際の加工ではより「広い」部分を削れるように仕向けることでパスの部分も削除することにします。

これには例えば、以下の図のように、ツールの加工深さを意図的に深く設定してみたり、刃角度が設定のものよりも大きいものを取り付けなどで行うと良いでしょう。

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最も簡単な方法はツールの加工深さをより深くする方法です。

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余りにも加工深さを深くとるとツールのが破壊されてしまう恐れがありますので、現実的な深さ増分で除去可能な値を算出すると良いでしょう。

元のガーバーデータの線幅を可能な限り細くすると、設定深さもさほど大きくなくて済みます。

図でも見ての通り、切削後のパスの溝幅は最小でも
有効ツール幅の2倍のスケールになります。


CNCでの切削作業

それでは前知識の説明はほどほどにしておいて、CNCでの切削をやってみましょう。

アイソレーション加工に関しては、以前の記事で操作手順を説明していたので、詳しくはそちらの方を参考にしてみてください。

こちらでは加工のポイントだけをピックアップした形で掲載します。

FlatCAMでの作業 ~ gcode出力

今回もガーバーデータからgcodeファイルの出力にFlatCAMを利用します

前回の記事で作成したガーバーファイルをFlatCAMに読み込んで新規プロジェクト化します。

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ガーバーデータでパスだった箇所を拡大すると0.05mm程度の線幅のラインに置き換わっていることが確認できます。

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このガーバーオブジェクト
[Gerber Object]を選択し、[Isolation Routing]からアイソレーション加工を設定していきます。

先程も説明したように、このパスを全て残さず溝として加工したい場合、0.05mmほどの線幅のラインを全て除去しなくてはなりません。

ということは、パスの周りの両端を幅0.1mm掘るつもりで、実際には幅0.2mm掘れていれば良いでしょう。

前節の見積もりで0.2mmのツール径幅で切削するための加工深さは0.571mmとすると良かったので、ツール径は0.1mmとしたまま加工深さはだいたいで0.6mmに設定します。

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なおツールタイプ(TT)は
Vの方がチップ形状としてが正しい設定になるとは思いますが、VをTTに指定して利用する場合、ツール幅の値から勝手に自動で深さ計算を行ってくれる仕様のため、今回のように切削幅をごまかして削るのには向いていません。

このためツールタイプは見かけ上
C1設定にする必要があります。

ツールが設定できたので、
[Genarate Isolation Geometry]ボタンを押すと、ジオメトリーが生成されます。

後は他の加工パラメータをいつものように決めておきます。

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ジオメトリーが出来たら
[Generate CNCJob object]ボタンを押して切削用のgcodeが完成です。

なお、今回使う先端径
0.1mmで刃角度10度のV字チップには一回の切込みで0.6mmも彫り込むのは多少辛い量かも知れません。

切削時に負荷がかかり過ぎているのであれば、
Cut ZMulti-Depth機能を有効にして、一定の加工深さで何回かに分けて削っていっても良いでしょう。

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その後、
[Save CNC code]から.ncの拡張子のファイルで適当な場所に保存しておけば準備完了です。

CNCで加工する

これも手順は前回と同じです。

まずは加工領域で
オートレベリングを行い、

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その後に、
前回と同じ手順でアイソレーション加工を行うとOKです。

加工失敗例〜コレットチャックでの軸芯ズレ

簡単な溝をアイソレーション加工するだけでしたので、さほど時間も掛からないだろうと思って、加工スタート時だけ注意深く見て、別の作業へいって、加工終わりの状態を見てみると...

こりゃ悲惨な結果になっていました。

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細いV字ツールを使ったはずなのに凄い切削幅で掘れてます。

確かに普段の加工の音が大きく感じて、「何処か変な気はする...」という気はしておりました。

なんじゃなんじゃと、異常がないか色々とチェックして、ツールをよく見てみると...、

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「わっー、コレット全然ちゃんとハマってなかった!」というのを今更ながらに発見しました。

これじゃ正確なツールの回転軸が出てなくて、切削の中心芯からズレちゃって、正確な加工が出来るはずもないですよね。

そう言えば最近買ったスピンドルモータとコレットを交換したときに、コレットとツールを仮留めしてた状態でそのままだったのを今思い出した始末...。

遊びとは言え、被害が出なくて良かったと思いつつ、こういう細かい事故は機械メーカーのNC加工機械でやってたらツールが吹き飛んで大事になるので、機械加工をやる上で必ず気をつけないといけないことです。

折角なのでコレットチャックについても復習しておきましょう。

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まずは上の図のようにコレットとハウジングを正しい位置に嵌めます。正しい位置にセットされると、カチッと音がします。

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で、これにツールを挿入して、スピンドルモーターに固定してはじめて、以下のようなちゃんと軸心ズレのないようなツール固定が可能になります。

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久々にCNCに触ると、すっかり忘れてしまうのでこういう細かいことに注意が必要です。


まとめ

今回はSVG画像から抽出したパスをCNC切削する際の実際の作業のポイントを説明してまいりました。

プロトタイプの基板にデザイン性などは余り深く考える方はいないと思いますが、話のネタとしては楽しい作業でした。