KiCad&FlatCAMで設計したシンプルなアナログ基板を卓上CNCで切削加工する


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2024/03/26
蛸壺の中の工作室|KiCad&FlatCAMで設計したシンプルなアナログ基板を卓上CNCで切削加工する



KiCadの話も色々と展開していきたいとはかねがね思っておりましたが、時間もとれずにだいぶ時間が空いてしまいました。
今回はKiCadからPCBで簡単な回路を作成し、CNCで切削する手順を通しで解説していく内容です。
このブログでは
『KiCad』『FlatCAM』 を用いて作成した機械加工用のデータを基に、 『bCNC』 で機械切削加工主体による作業を説明していきます。

参考|bCNC - GitHub

プロトタイプ基板をCNCで彫り込む際には、何通りかのツールを使って加工する必要ありますが、基本的にはより高い加工精度が求められる工程を先にやっていきます。
おさらいしておくと、卓上CNCを使ったPCB回路基板の切削加工の主な流れは以下のようになります。

            1. アイソレーション加工
2. エンドミル加工
3. ドリル加工
4. 基板カット加工

        

この手順の内、アイソレーション加工では、切削幅0.1mm程度のサブミクロンクラスの加工になりますので、IC製品のような微細なフットプリントをもつ部品を実装する場合に使います。
また、完成した回路基板を最終的にPCB母材から切り離すための基板カット加工も、通常太めのエンドミルで行います。
今回は個人の趣味のレベル程度の導通出来れてば良いくらいの代物で、取り出すのも1枚だけですので、回路加工後にハンドカッター等を使って、手で切り取ります。
ということで、正式な作法を圧縮して、時短も兼ねて、この記事では以下の簡略化した工程でやっていきます。

            1. エンドミル加工(アイソレーション)
2. ドリル加工

        

KiCadによる回路設計



まずはKiCadを使って回路設計から行います。

回路図の作成



KiCadの新規プロジェクトを作成し、
Schematic Editor から回路図を作成していきます。
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で、ここからデフォルトで用意されている部品ライブラリを使用して、パーツのシンボルを配置していきますます。
右側のツールアイコンの
[シンボルを配置] アイコンをクリックし、回路図上の適当な箇所でクリックすると、シンボル選択のウインドウから配置したいシンボルを選択できます。
今回は汎用のスイッチ(
SW_Push )とDCジャック( Barrel_Jack_Switch )を使います。
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ひとまずプッシュスイッチ3つとDCジャックは雑に配置しておきます。
なお今回は登場する機会は無いのですが、接続先がないピンは「未接続」であることを定義するための
"配線打ち止め"「☓」 で閉じる決まりになっています。
マイコンICなどを使うときに多数の未使用ピンがある場合には、その未接続の全てのピンに対し「☓」をつける必要があります。
「配線打ち止め」を利用する場合には、以下のようにします。
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この無理やり使ってみた例だと、全てのピンが未接続になってしまい、もはや電子回路でもなんでもなくなってしまいます。
今回は、実際には後述する「パッド」を設けて、そこへ接続しないといけません。

基板に機構穴を作る



回路基板を電子機器の筐体にネジ止めする際に、適切な位置に取付穴を設ける必要があります。
ビアやスルーホールなどの電気的な目的をもった穴とは別の構造的な穴は
「機構穴」 と呼ばれます。
電気的な意味を持たない「機構穴」をKiCad上で取り扱うには、少しコツが必要になります。
実のところ、知っているか知らないかの違いですが、機構穴専用のシンボルが存在します。

[シンボルを配置] アイコンを立ち上げ、検索ボックスから hole と打ち込むと、 [Mechanical] > [MountingHole] が見つかります。
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この「MountingHole」を基板にほしいだけ追加します。
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この穴を加工するドリル径などの諸元はまた後述するPCBエディター内で改めて設定することにします。

予備知識①〜「PTH」と「NPTH」



最終的に機械加工用にNCファイル等の形式で出力する際に、「PTH」か「NPTH」をチェックする項目があります。
今回でいうと、ネジ止め用の単なる下穴(=機構穴)は、
"NPTH" となります。
NPTHは
Non-Plated Through Hole の略で、「穴の内壁にメッキ処理をしない穴」を意味しています。
他方、ビアやスルーホールといった電気的な役割を持った穴には、基板表面にパッド部と穴の内壁にメッキ処理を施す必要があり、
"PTH"(Plated Through Hole) と呼ばれます。
PTHは構造上、NPTHより細かくパラメータを設定する必要があり、扱いには注意が必要です。

予備知識②〜ビアやスルーホールの機械加工について



ちょうど良い機会ですので、少し寄り道してKiCadでの「ビア径」・「スルーホール径」の考え方を復習しておきます。
先程も触れましたが、「ビア」や「スルーホール」は、電気的な役割を持って基板に空けられる穴です。
表面と裏面を配線として接続するビアの設計には特に気を使います。

参考|Definition of “Via Size” and “Via Drill”

上のKiCadのフォーラムでも議論されていますが、KiCadのビアの構造を図解した模式図が以下のようなものです。
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ビア本来の役割は、2層以上の異なるレイヤー間を電気的に接続させることであり、ドリル加工後に開けた下穴の内側に銅メッキを施すことで形成される層間バイパス構造です。
上の模式図にも示したように、KiCadのバージョン6以降では、仕上がりの穴径である
「Hole」 と、同じく仕上がりのアニュラリングとして見ることのできる 「Via」 の2つの値を設定します。
なお、ちょっと前のKiCadでは、「Hole」(図中のAの寸法)ではなく、「Drill」(図中のBの寸法)が設定パラメータで設定したように記憶していますが、加工ドリル径は機械加工業者の選定におまかせして、基板設計者はアニュラリング幅を考慮した寸法を使うように少しルールが変わったようです。

はんだ付け用のパッドをつける



割と忘れやすく(※個人的な感想)、今回もだいぶ作業が進んでからその存在に気がついて遅れて追加しましたが、後述するPCBエディターの配線作業中に線を引き伸ばしながら、それが無いことに気づくことの多いのが
「パッド」 です。
バッドは基板と外部のリード線をはんだ付けするために利用する場所で、電気回路の名脇役的な構造です。
パッドは導体エリアが島となって基板上にあるだけのものですが、KiCad上では立派な部品扱いなっています。

[シンボルを配置] アイコンでツールダイアログを立ち上げ、検索ボックスから point と打ち込んでみると、 [Connector] > [TestPoint] という項目で「パッド」のシンボルが見つかります。
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バッドは形状によっていくつか種類がありますが、ここでは一番スタンダードな
TestPoint を利用します。
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バッドはほしい数だけ、回路図面上に増やしておきます。
先に配置していたディップスイッチとDCジャックにこれらのパッドを接続していきます。
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これで一通り回路図の配置が完成しました。

アノテーションを割り振る



先程作成した図面上に配置したシンボルへ「部品番号」を割り当てる作業が
「アノテーション」 です。
アノテーション本来の意味は「記注」や「注釈」といった単語ですが、KiCadにおいて回路図の各構成シンボルにアノテーションを付けないと、「ERC(エレクトリカル・ルールチェック)」や「ネットリスト出力」が出来ませんので、図面を描き終えた後は必ず更新する必要があります。
アノテーション自体は、一つ一つシンボルに手動で決めていくことも可能ですが、部品の構成を厳密に管理しないといけないようなケースを除き、ツールで自動割り付けする場合がほとんどでしょう。
なお、シンボルエディタからシンボルを呼び出して回路にペタペタとシンボルを置いていくと、その順序でアノテーションが割り振られていくようになっているため、最近のKiCadではあまりこの作業は意識しない感じになっています。
では、まだ回路上にアノテーションが割り振られていない場合に、自動アノテーション機能を使って、シンボルに適当なアノテーションを割り当てします。
メニューバーから
[Tools] > [Annotate Schematic] を選択します。
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ツールのダイアログが表示され、自動アノテーションのルールを決めることができます。
特に理由がなければデフォルト設定で良いでしょう。
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下にある
[Annotate] ボタンを押すと、アノテーションの割り当てが実行されます。
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図面上にあるすべてのシンボルにアノテーションが付きます。
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ERC(エレクトリカル・ルールチェック)で回路を検査



ネットリストをエクスポートするには、事前に
「ERC(エレクトリカル・ルールチェック)」 をパスする必要があります。
ERCは、回路上の配線ミスやアノテーション未割り当てなどの後工程で問題となる要素を検査する機能です。
メニューから
[Inspect] > [Electrical Rules Checker] で、検査ツールを呼び出します。
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後は、
[Run ERC] をクリックして、回路上の問題がないかチェックを実行します。
今回の回路はシンボルを数点配置しただけなので、この時点でエラーも起こりようが無いのですが、実際の回路設計で人間の目では気付きにくいにくいミスも、だいたいこのツールでなんとかなる頼もしい機能です。

各シンボルへフットプリントを紐つける



先程までの内容では、回路上にあるシンボルは文字通り抽象的な状態でしたので、各シンボルに具体的な部品形状を紐付けしていく作業を行います。
一つ一つのシンボルにフットプリントを割り当てる場合、対象のシンボルの上でダブルクリックすると、フットプリントを選択しながら関連付けすることもできます。
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好みの問題ですが、部品数が増えてくるとシンボルを一つ一つダブルクリックするのも面倒ですので、ここではフットプリントマネジャーツールを使って、一括でフットプリントを指定していきます。
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ツールが開くと、フットプリント未割り当てのシンボルには、黄色のハイライトで網掛け表示されています。
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このツールの簡易的な使い方の流れですが、リスト欄は3つあり、左から、
Footprint Libraries(登録ライブラリ)Symbol(割当て対象のシンボル)Filtered Footprints(フィルタ検索結果) となっています。
まず、標準のフットプリントを呼び出すために、一番左の
登録ライブラリ の欄に必要なフットプリントを含んだライブラリを追加します。
メニューから、
[Edit the global and project footprint library list] のアイコンをクリックし、 Global LibraryProject Specific Library のどちらかに、今回の回路部品が含まれるライブラリファイル( Prettyファイル )をインポートしていきます。
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なお、自前でビルドしたKiCadなどはフットプリントのライブラリを別途ダウンロードして使うかもしれません。
KiCadの標準ライブラリは公式の以下のリンクページから取得することができます。

Download Libraries - KiCad

Prettyファイルで個別に追加できたら、一番左の
登録ライブラリ の欄に表示されている状態になります。
Prettyファイルを開いても登録ライブラリの欄に表示されないときがあるため、一度KiCadを再起動すると良いでしょう。
必要ライブラリの登録が済んだらフットプリント割り当てツールから、中央の
割当て対象シンボル の欄でターゲットとなるシンボルを選択し、一番左の 登録ライブラリ の欄で該当のライブラリを選ぶと、その候補となるフットプリントが右側の フィルタ検索結果 の欄で表示されます。
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割り当てる際には、
フィルタ検索結果 に表示されたリスト要素をダブルクリックすることで選択指定されます。
実際には手持ちの実存部品の寸法値を反映したフットプリントにする必要がありますが、現状は仮決めということで、一番寸法の近しいフットプリントを選択して関連付けをしていきます。

            タクトスイッチ[SW1 - SW3]:
    Button_Switch_THT:SW_PUSH_6mm_H4.3mm
DCジャック[J1]:
    Connector_BarrelJack:BarrelJack_Horizontal
ネジ取付下穴[H1 - H5]:
    MountingHole:MountingHole_3mm
バッド(小)[TP1 - TP6]:
    TestPoint:TestPoint_THTPad_2.0x2.0mm_Drill1.0mm
バッド(大)[TP7 - TP9]:
    TestPoint:TestPoint_THTPad_4.0x4.0mm_Drill2.0mm

        

ひとまず全ての部品要素にフットプリントを割り当てる状態になりました。
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なお、フットプリントの細かい寸法の修正は後述する
PCBエディター で確認&編集していきます。

ネットリストを生成する



次に先程のフットプリント情報に元に、
「ネットリスト」 をファイルとしてエクスポートします。
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保存先を選んで、
.net の拡張子のファイルを適当な場所に保管しておきます。
ネットリストはこれで準備完了です。

PCBエディターを起動する



先程作成したネットリストを使って、『PCBエディター』から基板レイアウトの作成を進めていきましょう。
かつての古いKiCadでは、基板レイアウトを担当するサブアプリは
Pcbnewエディター という名前だったのですが、KiCadv6系以降では、 PCBエディター と少し名前が変更になっています。
それではKiCadのプロジェクト管理画面から、
[PCB Editor] をクリックして起動してみます。
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当然ながら、プロジェクトの最初のPCBエディター起動時には、何もないまっさらな状態になっています。
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基板レイアウトの設計作業を始める前に、PCBのCNC加工のための必要最小限の項目は決めておかないといけません。

            + 回路配線の線幅(Track)
+ ビア径(Via)
+ 切削加工に必要なレイヤー
+ 基板や部品配置の寸法

        

などを前もって図面に起して、準備しておかないといけません。
ざっくりと基板レイアウトの寸法を書き込んだ外観図をSVG形式にして作成しておきます。
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この寸法に従って、PCBエディターの回路レイアウト図面も作り込んでいきましょう。
また、切削加工を念頭に入れたレイヤーの扱いも、フォトリソグラフィー主体の基板製作業者に委託する工程とは大きく異なります。
シルクプリントや、ソルダーレジストマスクなどの特定の目的をもったレイヤーも、切削加工では意味を持ちません。
ここでの発想としては、
「基本的にはF.Cu、B.Cu、Edge.Cutの3つのレイヤーを切削加工のみに割り当てる」 という考えで作業を行います。
切削加工に利用するツールチップの種類や数によって、加工条件の組み合わせは人それぞれ変わってきますが、著者の開発環境で決めた値は以下の通りです。

            + トラック[mm]: 1.0/4.0
+ ビア[mm]: 0.3
+ 使用レイヤー:
    F.Cu
    Edge.cuts
    User.1 (※メモや画像添付などの自由用途)

        

理想としては、PCB基板を固定するためのM3ネジ用の下穴を空けるのにΦ3.2くらいのドリルを卓上CNCを使って空けられたら良かったのですが、所詮は業者さんの使う一台何千万円クラスのNC機械と比較するとオモチャのようなものなので、利用できるドリルビットサイズの選択はかなり制限されます。
...業者に発注するのとはわけが違い、個人のDIYレベルですと、涙ぐましいアイデアと工夫で乗り切る必要があります。
ここでは手持ちのドリルビットの中で卓上CNCで使えそうな最大径のものが
Φ1 しかないので、卓上CNCでは一旦下穴として小さな径のドリルで穴を空けておき、後で手動でボール盤などで目的の下穴サイズまで広げるようにします。
またトラック幅に関しては、一般的な銅薄膜の厚み35μmの場合には、ざっくり1Aで1mm相当のようですので、ラズパイ4なら電源MAX4A程度で、4mmを念頭にしています。

参考|パターン幅とビア径の決め方

寄り道〜ビアも自作するときの注意点



今回はあまりにもシンプルな回路なのでビアを設けることはしませんでしたが、2層以上で回路を接続したいなら、場合によってはビアも自作する必要が出てきます。
ただし、ビアの寸法は適当に決めてよいものではなく、許容電流の大きさを考慮してサイズ決める必要があります。
そもそも、KiCadを使って、切削加工から回路基板を自作しようとしている時点で、厳密な基板作製委託業者に指示するための「ビア寸法」とは意味合いが違ってきます。
本記事が説明する自前で切削加工するやり方と、業者の指定する製造規約では、かなり作法が異なってくると思いますので、試作テストを終えて業者に基板の量産を発注する際には、図面等を適切に手直しすることを忘れずに行いましょう。
個人で銅薄膜成膜装置を持っているかたはまずいらっしゃらないと思いますので、自作のビアは、ドリルで空けた貫通穴を、はんだで埋めるようなものになるでしょう。
ということで、KiCadでは、ビア径=ドリル径という加工情報を、メニューの
[Board Setup] から基本設定を仕込んでいきます。
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[Board Editor Layers] のタブで、機械加工オンリーで回路を仕上げるため、余計なレイヤーは除外して絞ることができます。
なお利用しているKiCadv6では、片面基板(レイヤー数1)に設定できなさそうなので、ウラ面の
B.Cu はそのままにしておきます。
またお好みで、ガイドやメモなどのお絵描きに利用できる
User.* レイヤーも追加しておくと良いでしょう。
ビア寸法の制限を解除するために、
[Design Rules] > [Constaints] でパラメータを図のようにゼロににします。
これで、ドリル径がビア径というビアが設定可能になります。
例えば、線幅に
1.5/2/4[mm] 、ドリル径 0.3/0.9[mm] を設定したいとすると、 [Design Rules] > [Pre-designed Sizes] から、以下のように設定して利用します。
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カスタムした線幅とビア径を定義することで、ツールメニューから切り替えることができるようになります。
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ネットリストのインポート



では前節の内容までで作成したネットリストをPCBエディターにインポートするところから開始します。
メニューから、
[File] > [Import] > [Netlist] でインポートツールを呼び出します。
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ツールのダイアログが開くので、フォルダのアイコンからネットリストファイルを選択して、
[Update PCB] をクリックすると、固まった未配線の部品の塊がゴチャッと図面上に配置されます。

基板の外形を決める



まずは基板のカット形状(外周)を
Edge.cuts レイヤー上に決めていきます。
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さほど時短にもならないのですが、2つの基板を隣り合わせにして、カット加工のパスをちょっとだけ重ねて加工の効率化を図ります。

要素部品を配置する



図面で決めていた位置にインポートしていた部品を配置していきます。
KiCadのPCBエディターは厳密なCADではないので、手動による寸法通りの位置取りが厳しいかもしれません。
あくまでも自己流ですが、メニューから
[File] > [Import] > [Graphics] でSVGやDXFのような2次元図面を指定のレイヤーに呼び出して、配置の位置取りガイドに利用することができます。
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補助レイヤーに2次元図面を呼び出しておくと、部品要素の位置決めで利用することができてそれなりに便利です。
ここでは
User.1 を補助レイヤーとして、図面の画像をこのレイヤーにインポートして、ガイドに利用します。
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今回は片面PCBを削っていくので、主に
F.Cu レイヤー上に切削構造を作ります。
ガイドレイヤーを参考にしながら、部品要素を移動して配置します。
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部品要素のフットプリントを修正する



前項の内容で、保留していた課題で、ライブラリから呼び出したシンボルのフットプリントを、実際に実装する部品の寸法へすり合わせ修正作業をここで行います。
部品個別のフットプリントは、図面上に配置した要素をダブルクリックすることで、フットプリントの設定が可能です。
まずは機構穴の寸法を変更してみます。
機構穴を一つダブルクリックすると、プロパティ設定のダイアログが立ち上がるので、以下のようにホールの径を修正してみます。
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前述の通り、基板を取り付けるためのM3ネジの下穴のつもりで配置した機構穴ですが、業者に発注するならそのままで良いものの、自分で穴を開けるのであれば、手持ちのドリル径(ここではΦ1)の値に変更しています。
また、ソルダーレジスト層を意味する、
F.Mask のレイヤーは切削加工では利用しないので、ここではチェックを入れても外してもどちらでも結構です。
5箇所の下穴の加工径をΦ1にしたらOKです。
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もう一点、ノンブランドのDCジャックを使うため、汎用のDCジャックのフットプリント寸法と少し手直しする必要があります。
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コンポーネント要素のフットプリント修正には、対象の部品を選択しておき、右クリックメニューから、
[Open in Footprint Editor] を選択すると、フットプリントエディタが開きます。
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DCジャックのフットプリントは番号1のパッドの位置を基準点(
x=0, y=0 )として、他のパッドの座標が決まっています。
ということで、今回は実際の部品の寸法を元に、番号2と3のバッドの座標を以下の用に修正してみます。
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ピンの位置の他の設定はそのままにしておきます。
また、大きい方のパッドがカット外形からはみ出ていたり、はんだ付け用の穴のサイズも大きいので、適切なサイズにパッドのプロパティから調整します。
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トラックで配線する



スイッチ用に1mm幅、電源には4mm幅でトラック配線を設けていきます。
ここでは単純な回路なので、そんなに配置に悩むことなく線を描いても良いとしましょう。
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どうせボードカットするので、線が多少枠線の外へ飛び出しても気にせず繋いでしまいます。

ベタを塗りつぶす



「ベタ」は、基板上の銅薄膜領域の業界用語であり、
銅でベタッと塗り潰したパターン になります。
切削加工が前提ですと、ベタが回路上のどこにあるのかをちゃんと教えてあげないと、配線やパッド以外の領域の全て導体が取り除かれしまいます。
そうなると、削らなくても残しておけば良い部分も無駄に削ってしまうことになり、切削完了時間が長くなってしまうほか、エンドミルやV字カッターなども無駄に摩耗して使い切ってしまいます。
そういったことを防ぐためにも、ベタはちゃんと付けておく必要があります。
ベタは右のツールパレットにある
[Add a filled zone] ツールから範囲を囲って、ベタ塗りを実行することで作成します。
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基板の加工原点を設定する



切削加工では、加工原点が極めて重要な役割を持っています。
基板の加工領域よりも左下端の適切な位置に設定してみます。
メニューバーより
[Place] > [Drill/Place File Origin] で基準点になる位置をクリックしましょう。
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DRC(設計エラーチェック)を実行する



全ての要素部品の配置と接続が終わったので、DRC(Design Rules Checker)ツールでエラーがないかチェックを行います。
この工程で回路設計上、問題のある箇所を細かく検査して、設計者に教えてもらえます。
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詰めが甘く雑に作ったためか、結構多くの設計上の問題を指摘されているので、エラーのおしながきを一つ一つチェックして、エラーの原因を潰していきます。
エラーが出ないようにいくらか修正を重ねていくと、以下のような回路になります。
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警告箇所は残ってはいますが、ひとまずエラーを全て無くした状態で、次の手順に進みます。

印刷して実際の部品が載るか確かめる



この作業はオプションですが、CNC実機で加工した後で、間違いに気づくよりも心理的なダメージが軽減されるため、紙に印刷してみて配置を確認する作業をやってみます。
まずはツールバーにある
[Print]のアイコン をクリックし、印刷ツールを立ち上げるます。
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印刷したいレイヤーを選択し、出力モードで
Color 、スケールは 1:1 にして、 [Print] をクリックします。
出力形式はpdfかsvgで良いでしょう。
これを紙に等倍印刷し、パーツの位置がきちんと実装できそうかどうか、実際の部品を紙の上に載せてみて事前にチェックすることができます。

ガーバーとエクセリオンファイルの出力



PCBエディターによる基板レイアウトが仕上がったら、メニューから
[ファイル] > [プロット] をクリックし、「プロットツール」に移行します。
加工するための出力フォーマットは
Gerber(ガーバー) になります。
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今回は片面銅箔板を使うので、切削する対象の
F.CuEdge.Cut の2つを選択しておきます。
また、加工原点を指定した場所に設定するために、
Use drill/place file origin にチェックを入れておきます。
他はデフォルトでも良いでしょう。
とりあえず諸元をさっと確認してから、
[Plot] ボタンをクリックし、製造ファイル出力します。
実行すると、
*-F.Cu.gtr*-Edge.Cuts.gm1 という名前のガーバーデータが指定したファイルに保存されます。
また、ドリル加工用のファイルもここで出力させておきます。
プロットツールの下にある
[Generate Drill Files] ボタンをクリックして、ドリル加工ツールを呼び出します。
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今回の加工では前述で説明したように、PTHとNPTHは区別せずドリル加工するので、
PTH and NPTH in single file にします。
加工原点も
Drill/place file origin を指定し、使用単位は Millimeters に変えておきます。
設定を確認したら、
[Generate Drill File] ボタンをクリックするとドリル加工用のExcellonファイル( *.drl )が保存されます。
場合によっては、穴の加工にドリル以外のツールを使うための他のマップファイルも出力オプションとして選ぶことも可能のようです。
以上、ここまでの設定で、

            <プロジェクト名>-Edge.Cuts.gm1
<プロジェクト名>-F.Cu.gtl
<プロジェクト名>.drl

        

の3つの目的別加工ファイルを出力して、ようやく前半のKiCadでの作業が完了です。



FlatCAMでNCファイルを作成



先程までのKiCadによる基板レイアウトからガーバーデータ出力までの作業が終わりました。
ここからは卓上CNCが実際に加工するためにGCodeファイル等の実加工形式のデータに変換していきましょう。
この記事では、CAMソフトウェアとして
「FlatCAM」 を利用して以降の作業を進めていきます。

参考|FlatCAM: Free and Open-source PCB CAM

なお、FlatCAMのインストール方法に関しては以下の過去の記事が参考になります。

合同会社タコスキングダム|蛸壺の技術ブログ
[FlatCAM導入] FlatCAM 8.9(Beta)をmacOSXにインストールする

高性能でありながら無償で利用できるCAMソフト・FlatCAMのベータ版をmacOSXへ導入する手順をまとめてみます。

合同会社タコスキングダム|蛸壺の技術ブログ
[FlatCAM導入] FlatCAM 8.9(Beta)をLinuxにインストールする

無償で利用できるCAMソフト・FlatCAMのベータ版をDebainLinuxへ導入する手順をまとめてみます。

FlatCAMでの作業①〜銅膜剥離加工



先程KiCadで出力した加工用ファイルからさらにFlatCAMを使ってncファイルに変換していきます。
ここからはFlatCAMで作業を続けます。

            $ python FlatCAM.py

        

設定を確認するには、メニューから
[Edit] > [Preferences] でmmの長さユニットになっていることを確認しておきます。
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赤い字なっている項目が設定必須事項です。
他にも細かい設定もできますが、今の段階ではさほどこだわることもないのでデフォルト設定のまま次に移ります。
最初に、表面のミリング加工から作成していきます。

[File] > [Open] > [Open Gerber...] を選択し、基板表面パターンの *-F.Cu.gtl を開きます。
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左側のウォーキングツリービューに読み込んだガーバーファイルが
Gerverオブジェクト として登録されます。
ツリービューから追加Gerverオブジェクトをダブルクリックすると、
[Selected] タブに切り替わり、選択したガーバーオプジェクトの加工条件を設定することができます。
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今回は冒頭でも述べたように、
Isolation Routing をすっ飛ばして、 NCC Tool でミリング加工していきます。

[NCC Tool] ボタンをクリックすると、 Non-Copper Clearing(表面銅膜剥離) の工程が設定できます。
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デフォルトでは、すでにサンプルのツール(Φ1.0とΦ0.5の1枚刃エンドミル)が2つ登録されています。
好ましいツールがなければ、ツール径と形状、加工深さを設定して追加登録するだけです。
所持しているΦ0.5のエンドミルがあるので、この#2のツールを選択してから
[Generate Geometry] をクリックし、 Geometryオブジェクト を生成します。
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これで#2のツールで基板表面の銅膜剥離加工が完成です。
あとは、ncファイルを出力するため、
[Generate CNCJob object] ボタンをクリックして、 CNCJobオブジェクト を生成します。
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最後に、
[Save CNC Code] をクリックして、ncファイルをエクスポートします。

FlatCAMでの作業②〜貫通穴の加工



次にドリルで基板に丸穴を開ける加工を設定します。

[File] > [Open] > [Open Excellon] から、KiCadから出力しておいた穴あけ加工用の *.drl を開くと、プロジェクトに Excellonオブジェクト が追加されます。
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左のツリービューから開いた
Excellonオブジェクト をダブルクリックすることで、ドリル加工の設定をしていきます。
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この項目では、ドリルをどのくらいの深さまで入れるかを検討します。
今回加工するPCB基板の厚さは1.5mmということなので、
Cut Z-1.7 を指定します。
これでおそらく基板を貫通する穴が掘れるはずです。
あとは先程と同様、
[Generate CNCJob object] ボタンを押して、 CNCJobオブジェクト を生成してからそのncファイルをエクスポートするだけです。
今回はドリル径は同じでも別のツールとして扱われるものが2つあるので、この両方からドリル加工用のncファイルを出力しています。
もう一点注意なのは、今回はDCジャック取り付け用の長穴も加工しなくてはいけません。
これはこれで長い話になるため、別記事で説明しています。

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【卓上CNCでドリル加工】FlatCAMでOval(楕円穴/長穴)を切削する

FlatCAMを使って長穴(Oval)を加工したい場合の設定手順



これで基板上全ての穴加工ファイルが揃いました。
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FlatCAMでの作業③〜基板の外形カット



基板の外形カットはPCB基板から加工した領域を取りやすくする「基板の厚み分を削る溝加工」です。
製品レベルでは基板を綺麗にPCB基板から外す必要があるので、しっかりとしたカット加工を設定する必要があります。
プロトタイプなので仕上がりを気にせず手で剥ぎ取りますので、回路基板の取り出し後の仕上がりを気にしないなら、やらなくても良いオプション扱いの加工です。
もしカット加工を作成したい場合には、雰囲気だけ軽く説明しておくと、
[File] > [Open] > [Open Gerver] から、KiCadで出力させておいた *.gm1 を開いて、 Gerverオプジェクト を生成します。
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ここから
[Cutout Tool] ボタンで、基板カット用の Cutout ツールを呼び出します。
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基板カット加工の場合、PCB基板母材から、回路基板を取り出すために基板の厚み分の溝を外周に彫っていくのですが、支持する
Bridge 構造がないと、溝を取り払った瞬間、基板が吹き飛んでしまいます。
ということで、カットパスにBridgeを自動でつける機能がいくつか用意されています。
デフォルトでは、回路基板を囲う矩形領域に4箇所で支持するBridgeを付けるような構造になります。
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どのBridge構造が良いかは、最終的な切り取り易さで判断しながら付け足すと良いでしょう。

実際のCNCで加工を検証する



長い道のりでしたが、ここまでKiCadから設計して、FlatCAMでNC加工ファイルに変換するまでを一通り説明してきました。
この記事で取り扱う内容としては以上で解説してきた話で終わり、あとはCNC実機でどう削るかは色々とやり方があると思います。
このブログだと、
「bCNC」 あたりをラズパイに入れて加工に使っているやり方を紹介しています。

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InkscapeでSVG画像からBGR(ガーバー)ファイルに変換して卓上CNCで基板を削る②

ガーバーデータを元にV字カッターでアイソレーション加工でパスの縁取りを削ってみる



...で、誠に恐縮ですが、いろんな案件にスケジュールを押されて、現状少々時間が取れない状況が続いております。
続きの作業が出来次第、今回作成したオレオレプロトタイプ基板の加工後の結果を後日アップデートとして報告する予定です。
しばらくお待ちください。


まとめ



以上、本記事では回路基板のプロトタイプをどう一から作成するかにスポットを当て、KiCadの回路設計から初めて、FlatCAMで卓上CNCで自作加工できるファイルに変換するまでを説明してみました。
近年では、PCB基板の作成委託業者もオンラインから簡単に受注依頼を申し込むことが出来、質も価格も向上していますので、必ずしも自分で基板の加工を行う必要も薄れてきているかもしれません。
それでも自前で基板を作るメリットは、おおよそ
「リードタイムの節約」 にあると思います。
格安かつ少ロットで作製を請け負ってもらえるサービスはほとんど中国頼みという状況ですので、どう急かしても、完成品基板を日本国内で受け取れるのは一週間かそこらは見ておいたほうが良いでしょう。
対して、自分でCNC加工機等で作製する場合、今回のようにガーバーデータをCAMソフトでNCデータにする手間はありますが、慣れたら1日2日の時間でプロトタイプ基板をテストすることも可能になります。
自作は機材を揃えるまでに手間がかかる等のデメリットもありますが、そこはトレードオフを色々と思案しながら考えてみてはどうかと思います。