【LTspice】バイポーラトランジスタの基本特性をシミュレーションしてみる


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2020/07/26
2021/06/22
【LTspice】基礎的なオペアンプ差動増幅回路のシミュレーション方法




先日バイポーラトランジスタC1815をネット注文しようかなとAmazonを覗いてみると、定番のバイポーラトランジスタ詰め合わせセットが売っていたので、試作用に便利かなと思いとりあえず購入してみました。
今回はこのC1815を使ったLTspice上で回路シミュレーションを始めるにあたって、データシートに記載されている基礎特性を確認してみようという内容になっております。
C1815だけでは少し寂しいので、昔大量に大人買いして眠らせてしまっただけの個人チョイスで2SC2120の基礎特性も、LTspiceでバイポーラトランジスタの基本特性をシミュレーションの手順を例を交えながら検証していきます。
なお、今回の検証ではnpn型のバイポーラトランジスタを利用しています。


基礎知識 〜 NPN型とPNP型の違い



まずは良くバイポーラトランジスタの特性を忘れがちになるので、少し復習しておきましょう。
バイポーラトランジスタには、
NPNPNP という2つのタイプがあり、コレクタ-エミッタ間の電流が流れる方向が異なっています。
ですので、極性を間違って付けるとデータシート通りの正しい動作にはなりません(一応PNP/NPNトランジスタとしては動く)。

合同会社タコスキングダム|蛸壺の技術ブログ


バイポーラトランジスタを使う際には、エミッタ/コレクタ/ベースの3つすべてを可変的に制御することは難しいので、どれか1つを接地させたり固定電圧源に接続したりして基準電圧にとる必要があります。
データシートで一般的記載されているのは、主に
エミッタ接地 の基礎特性が多いのですが、その理由としてエミッタ接地を採用すると、何らかの入力信号を得て、ベース-エミッタ間に電位差を発生させてコレクタ-エミッタ間の電流をON/OFFさせるスイッチングを行わせるときに、エミッタ( Ve=0V_\mathrm{e} = 0 )を基準としてベース-エミッタ電圧 VbeV_\mathrm{be} を操作しやすいという利点があります。
そしてベース-エミッタ電圧
VbeV_\mathrm{be} を操作する方式で、エミッタが定電圧源か接地に接続されていることを考慮すると、極性を考えた場合、以下の図のようにNPN型ではコモンに接地、PNP型では定電圧源側に接続して、コレクタ側に何らかの負荷を付けた回路として利用します。

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どちらかというとNPN型のほうが回路としては考えやすく、入力信号との電位差関係もスッキリするので、国内の回路では、NPNペースの設計で好まれるのではないかと思います。
逆に欧州圏ではPNPが好んで使われるようです。 これはPNP型を採用した回路は通常OFF時に負荷側へ電流がかからないように、プルアップ電圧を入力電圧で与えておくというやり方になるのですが、万が一回路の何処かが誤ってショートしたとしても、電位差が起こりにくく、NPN型を使った回路より安全な設計になるからです。

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何処が接触するかというのはケースバイケースですが、最悪の場合で電源ラインとベースがショートした際に、NPN型で組んだ回路はコレクタ-エミッタ間に破壊的な大電流が流れて、負荷側の回路を焼き切る可能性があります。 対してPNP型だと、そもそも電圧源相当の電位差でベース側の電圧を持ち上げていたので、電源ラインがショートしてもさほどの電流が流れないようにすることができます。
やはり海外は家庭でも200VAC電源であるケースが多いので、日本と比べるとより安全な設計が求められているのではないかと思います。


出力特性



まずバイポーラトランジスタではもっとも一般的な特性であろう出力特性である
VceIcV_\mathrm{ce} - I_\mathrm{c} 特性曲線から見ていきます。 これは一定にしたベース電流 IbI_\mathrm{b} を流した際の、コレクタ-エミッタ間電圧 VceV_\mathrm{ce} とコレクタ電流 IcI_\mathrm{c} の関係性を表す出力特性の一つです。

解析手順

VceIcV_\mathrm{ce} - I_\mathrm{c} 用の測定シミュレーション回路を以下に示します。

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特に複雑な回路でも無いですが、コンポーネント配置をざっと説明すると、

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上図のようなコンポーネントセレクターにおいて、回路図左から、
current , npn , voltage の各コンポーネントを配置させ、適宜結線しているだけです。
以下の節でバイポーラトランジスタのLTspiceモデルと解析スクリプトを各々説明します。

C1815



データシートでは、典型的な
VceIcV_\mathrm{ce} - I_\mathrm{c} 曲線として以下のような図が記載されています。

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東芝製2SC1815(C1815)は大分昔にディスコンしてしまったので、LTspice用のモデルデータは公式から探すことはできませんが、有志の方々が蒐集してこられたものがネットで探すことができます。 例えば、
こちら のサイトから頂いてきたものを利用して、シミュレーションをします。
LTspiceのライブラリフォルダ
LTspiceXVII/lib/cmp/ 以下にある standard.bjt にこちらのサイトから頂いてきたモデル定義を追記します。

            *...中略
.model 2SC1815 NPN(Is=2.04E-15 Xti=3 Eg=1.11 Vaf=100 Bf=300 Ne=1.5 Ise=0
+ Vceo=50 Icrating=150m mfg=TOSHIBA
+ Ikf=200m Xtb=1.5 Br=3.377 Nc=2 Isc=0 Ikr=0 Rc=1 Cjc=1p Mjc=.3333
+ Vjc=.75 Fc=.5 Cje=25p Mje=.3333 Vje=.75 Tr=450n Tf=20n Itf=0 Vtf=0 Xtf=0)
.model 2SC1815-GR NPN(Is=2.04E-15 Xti=3 Eg=1.11 Vaf=100 Bf=300 Ne=1.5 Ise=0
+ Vceo=50 Icrating=150m mfg=TOSHIBA
+ Ikf=200m Xtb=1.5 Br=3.377 Nc=2 Isc=0 Ikr=0 Rc=1 Cjc=1p Mjc=.3333
+ Vjc=.75 Fc=.5 Cje=25p Mje=.3333 Vje=.75 Tr=450n Tf=20n Itf=0 Vtf=0 Xtf=0)
.model 2SC1815-Y NPN(Is=2.04E-15 Xti=3 Eg=1.11 Vaf=100 Bf=200 Ne=1.5 Ise=0
+ Vceo=50 Icrating=150m mfg=TOSHIBA
+ Ikf=200m Xtb=1.5 Br=3.377 Nc=2 Isc=0 Ikr=0 Rc=1 Cjc=1p Mjc=.3333
+ Vjc=.75 Fc=.5 Cje=25p Mje=.3333 Vje=.75 Tr=450n Tf=20n Itf=0 Vtf=0 Xtf=0)

        

Spiceモデル定義ファイル内では、
* がコメント記号、 + が改行記号として扱われます。
ちなみに、改行記号をそのままにして、変更を保存後にファイルを開き直すと、自動で改行が修正され単なる一行へ表記されます。 よって、定義ファイルの体裁を整えるため
+ 記号は手動で消して一行にしなくても、保存して開き直せばスッキリ1行表記になりますのでご留意ください。
今回の解析では一番データシートの結果に近しいと思える
2SC1815-Y モデルを利用させていただくとします。
解析スクリプト(SPICE Directive)は以下のようにします。

            .dc Vce 0 6 0.01
.step param IB list 0 .2m .5m 1m 2m 3m 5m 6m

        

解析を走らせると、以下のような結果を得ます。

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表示している横軸は
Ic(Q1) で、バイポーラトランジスタ要素 Q1 のコレクタ電流 Ic として値を引き出せます。
さて、もともと頂いたモデルなので贅沢はいいませんがデータシートの完全再現とまではいかないようです。 まぁC1815のような安価が売りのセカンドソース品に、製品としての精度や信頼性を求めてもしかたないので、
大雑把に使える モデルとしてポジティブに捉えておきます。

C2120



こちらももともと東芝製でディスコンした製品のセカンドソース品です。
C1815 ほどメジャーではないのですが、安価の割に、後述する直流電流増幅率 hFEh_\mathrm{FE} が大きく、1W程度の出力が得られます。
データシートでは以下のような曲線になるようです。

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このバイポーラトランジスタですが、ディスコンしてからかなりの歳月が経っているようで、残念ながらLTspiceモデルを見つけることができません。 よって特性の似ている現行製品でモデルの代用を検討してみます。
他の方のサイトなどを拝見するかぎり、
2N3904 などで代用すると良さそうです。
2N3904はLTspiceのライブラリにデフォルトで収録されていると思いますが、
standard.bjt に見当たらない場合には、 LTspice Wiki - standard.bjt から該当のモデルを抜き取って利用してみましょう。
回路のバイポーラトランジスタを
2N3904 に置き換え、解析スクリプトは以下の内容に書き換えます。

            .dc Vce 0 6 0.01
.step param IB list 0 1m 2m 3m 4m 5m 6m 7m 8m

        

解析を走らせると、

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を得ます。
こちらは若干電流値が高めにでますが、近しいといえば近しい再現性です。


入力特性



次にバイポーラトランジスタの入力特性を検証します。 メーカーや設計思想、用途によって何を入力特性としてどの指標を使うかは若干異なるようです。
シミュレーションのモデル回路は先程のものをちょっとだけ手直しします。

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変更点として、ベース側の電圧値をみるため
Vbe というポイントマーカーを設置しています。 また、電流値のリストパラメータとして {IB} としていたものは、このシミュレーションでは電流源として解析に利用するので一度 0 Vにしています。
ではそれぞれのケースでシミュレーション結果を見ていきます。

C1815



データシート上には入力特性として
VbeIbV_\mathrm{be}-I_\mathrm{b} 特性曲線が記載されています。 これはコレクタ-エミッタ間電圧 VceV_\mathrm{ce} を一定にしたときのベース-エミッタ間電圧 VbeV_\mathrm{be} とベース電流 IbI_\mathrm{b} の関係性を示すものです。

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ここでも上述した
2SC1815-Y モデルを利用させていただくとします。
解析スクリプト(SPICE Directive)は以下のように変更します。

            .dc dec I1 0.1u 1200u 100
.step temp list -25 25 100

        

.dc(直流解析)では、解析するデータ点を刻むオプションとして、
Linear/Octave/Decade/List が指定できます(デフォルトは Linear )。 対数グラフを念頭に結果をプロットする場合には、 dec(Decase) を引数に与えます。
この例でいうと、
0.1u 1200u 100 は、0.1 μA\mu\mathrm{A} から1.2 mA\mathrm{mA} の区間を10倍刻み間隔でデータ点を100点サンプルする。 という意味になります。
また、シミュレーション内の雰囲気温度は
temp というオプションで指定します。 このときの温度はセ氏単位となります。
シミュレーションを実行し、横軸・縦軸を入れ替えて表示を整えると、

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となり、入力特性の再現性はまぁまぁといった感じです。 雰囲気温度に対しては、
VbeV_\mathrm{be} に若干の変動がみられるものの、入力制御電流 IbI_\mathrm{b} の温度変化は同じです。
なお、
グラフの横軸・縦軸を再設定するテクニックに関しては、こちらのサイトで詳しく解説されています

C2120



こちらはデータシートに
VbeIcV_\mathrm{be}-I_\mathrm{c} 特性曲線のほうが入力特性として記載されていました。

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とはいえシミュレーションとしては同じですので、上述した
2N3904 に置き換えて、 Vce = 1V に固定しなおしてから、計算を走らせてみます。
解析スクリプトは以下です。

            .dc dec I1 0.01m 10m 100
.step temp list -25 25 100

        

結果のプロット表示を整えてたものが以下です。

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すこし曲線が高電圧側にずれているものの、代替モデルなのでこの辺は許容できる範囲かとおもいます。


電流伝達特性



代表的な電流伝達特性として挙げられるが直流電流増幅率
hFEh_\mathrm{FE}IcI_\mathrm{c} の相関図がほぼ全部のデータシートに記載されていると思います。 この直流電流増幅率は、

hFEIcIb h_\mathrm{FE} \equiv \frac{I_c}{I_b} Eq. (1)


として定義されている指標です。 この定義が示すように、コレクタ-エミッタ間電圧
VceV_\mathrm{ce} を一定にしたときのベース電流 IbI_\mathrm{b} とコレクタ電流 IcI_\mathrm{c} の電流伝達特性を表しています。
あまり見かけないですが、
IbIcI_\mathrm{b}-I_\mathrm{c} 特性曲線の直接的な相関図がデータシートに記載されている場合は、このリニア部分の傾きが直流電流増幅率 hFEh_\mathrm{FE} となります。

解析手法



電流伝達特性のシミュレーション回路としては、先程の入力特性で解説した回路と同じです。

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ただ電流伝達特性のような比率をグラフ化するには、ちょっとしたテクニックを使う必要がありますので、ここで説明しいておきます。
まずこのシミュレーションを実行し、とりあえず空のプロット画面を表示させます。 そして、以下のようにマウスを横軸上にボバーさせると、ものさしのアイコンになるのでそこで右クリックします。 すると、
Horizontal Axis の設定ダイアログが出てきます。

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このダイアログの
[Quantity Plotted] に指定したポイントが横軸になりますので、バイポーラトランジスタ Q1 のコレクタ電流 Ic(Q1) を指定します。 レンジは見やすいように適宜調整します。

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と横軸は
Ic(Q1) になりました。
次に縦軸ですが、今回は
Ic/IbI_c/I_b という比率でグラフに設定したいので、グラフの空白のところで右クリックして [Add Traces] を選んで、 [Add Traces To Plot] ダイアログを表示させます。

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この
[Expression(s) to add] の項目には、各ポイントの電圧・電流値だけでなく、簡単な算術表現も指定できます。 ここでは、 Ic(Q1)/Ib(Q1) と入力して [OK] ボタンを押すと、

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のように縦軸に算術換算された値が表示できした。 このテクニックを使うことで、電流伝達特性も簡単に作成することが可能です。

C1815

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解析用のスクリプトは以下です。

            .dc dec I1 0.01u 1 100
.step temp list -25 25 100
.step Vce list 1 6

        

解析結果は以下のようになります。

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見ていただいて分かる通りで、データシートと比べ増幅率も高めにずれて、なおかつ
IcI_\mathrm{c} の高電流域まで曲線が延びているような結果です。 つまりこのモデルを利用する際には、 IbI_\mathrm{b} の電流値を高めに使うとシミュレーション結果はあまり実際の回路の結果とかけ離れてくる、と言えそうです。

C2120

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解析用のスクリプトは以下です。

            .dc dec I1 0.01u 1 100
.step temp list -25 25 100

        

なおシミュレーション回路上では
Vce = 1V で固定しています。
解析結果は以下のようになります。

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こちらもデータシートと比べ、増幅率も2倍3倍高めにずれています。
実際の2SC2120-Yはこれほど高いゲインを期待できないので、シミュレーションは過大評価気味に結果がでると割り切っていれば、そこそこ使えるかも知れません。


まとめ



著者的にLTspiceを使うときにじっくりとモデルの一つ一つのパフォーマンスを評価したことが無かったので、とりあえず手元の2つで検証しました。 結果からいうと、現実の素子との食い違いの大小があり、厳密な定量解析をLTspiceだけで行うのは不可能に近く、最終的には実際の検証基板で製品評価をしなければいけないな、と再認識しました。
もちろんシミュレーションするにあたっての理想は、できるかぎり再現性の高いモデルを一つ一つ用意することなのですが、無償であるLTspiceでそこまで求めてしまうのは厳しいかもしれません。 企業などのプロダクトに利用するシミュレーションは、OrCAD Pspiceを検討するほうが良いとおもいます。

参考サイト