Debian LinuxにKiCad v9以降をインストールする方法
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2022/10/03
2025/08/21

近年のKiCadは年に一回程度のハイペースでメジャーバージョンが上がるようになり、かなり活発的に開発が進むような状況になりました。
また、様々なOSへのインストールのサポート強化を進めており、さほど気にはせずとも比較的最新のバージョンのバイナリを各Linuxデストロの環境に簡単にインストールできるようになりました。
現状、KiCad v9が正式にリリースされました。
かつては最新のstable版はGitlabからの「ソースコードビルド」をする方法は一般的でしたが、徐々にその導入の選択肢も増えてきているように感じます。
KiCad v9からは、各Linuxの標準パッケージマネージャによるインストール方法が強化され、いよいよこれまで煩わしかったFlatPakなどのサードパーティ製のインストーラーを利用せずとも良くなりました。
この記事では以下の方法で、DebianOSへのKiCadのインストール手順を簡単に取り上げてみます。
パッケージマネージャーからインストール FlatPakからインストール ソースコードビルドによるインストール
なお、公式のサイトでも注記事項として記述されているように、
KiCadのアップグレードの注意点 KiCadでは、メジャーバージョンが繰り上がるたびに、後方互換の避けるようにファイルフォーマットが改定される KiCad 7系以降で作成したプロジェクトを、KiCad 6系にダウンコンバートすることが不可能になる
このため注意が必要なのは、一度KiCadのバージョンを上げて、設計ファイルを編集&保存してしまうと、それ以降は古いメジャーバージョンのKiCadではプロジェクトなるごと立ち上げることができなくなってしまいます。
開発チームでプロジェクト共有する際には、KiCadを計画的に関係者全員のバージョンアップを検討されたほうが良いでしょう。
パッケージマネージャからKiCadをインストール
古いKiCadのアンインストール
過去に古いKiCadをパッケージインストールしていた場合、開発環境に混在していると紛らわしいので、古いライブラリ群もまとめて一旦クリーンにしておきましょう。
Debainの場合、過去にパッケージインストールしていた場合には、コンソールから削除することができます。
例えば以下は、古いDebian LinuxでKiCad v5をパッケージインストールしていた場合です。
$ sudo apt remove KiCad
$ sudo apt autoremove
#...省略
KiCadをアンインストールすると、付随する様々なライブラリも一緒に削除してくれます。
KiCad v6以降のソースコードビルドには比較的新しいライブラリが多数利用されていますので、KiCadをアップグレードする前に依存性のあるライブラリを最新のものにしておいたほうが良いでしょう。
KiCad v9をインストール
では、改めて最新のKiCad(stable)を入れてみます。
KiCad stable版のパッケージは、通常のレポジトリとは異なり、
ということで、Backports用のソースリストを追加する必要があります。
Debian12(bookworm)の場合、
$ sudo nano /etc/apt/sources.list.d/debian-backports.sources
で、以下のファイルを内容に編集します。
Types: deb deb-src
URIs: http://deb.debian.org/debian
Suites: bookworm-backports
Components: main
Enabled: yes
Signed-By: /usr/share/keyrings/debian-archive-keyring.gpg
ファイルを保存したら、アップデートします。
$ sudo apt update
通常、backportsからのパッケージインストールは無効になっています。
よって、以下のようなコマンドからインストールしましょう。
$ sudo apt install kicad/bookworm-backports -y
#もしくは
$ sudo apt install -t bookworm-backports kicad -y
これで、最新のバージョンのKiCadがパッケージマネージャから導入することが可能になりました。

なお、Debianのパッケージ版では、stable(9.0.3)のみが提供されています。
Nightlyを試すには、以降で説明する方法でインストールを試してください。
「libpython3.9.so.1.0」がない場合の対処法
現行のKiCad v9では内部でpython3.9系のライブラリを利用しているようですが、これはDebian12(Bookworm)の標準であるpython3.11系よりも古くなっています。
日常的に使っているDebianパソコンも様々なソフトを追加と削除を繰り返す過程で、既に使われなくなったと判断された「libpython3.9.so.1.0」が気づくと喪失している場合があります。
$ kicad
kicad: error while loading shared libraries: libpython3.9.so.1.0: cannot open shared object file: No such file or directory
$ sudo find / -name libpython3.9.so.1.0
#...ファイルがどこにもない
こうなると面倒なのが
libpython3.9
こういったときに使えるのが
手順としては、
pyenvから最新の3.9系をインストールする kicadから見えるライブラリにシンボリックリンクを貼り直す
pyenvでインストール可能な3.9系をリストアップすると
$ pyenv install --list | grep 3.9.
3.9.0
3.9-dev
3.9.1
#...
3.9.23
で、現在のところ
3.9.23
もし、リストが古そうであればpyenvを更新させる必要がありますが、
pyenv-update
$ git clone https://github.com/pyenv/pyenv-update.git $(pyenv root)/plugins/pyenv-update
$ pyenv update
では、pythonライブラリを以下のようにインストールします。
env PYTHON_CONFIGURE_OPTS="--enable-shared" pyenv install 3.9.23
インストール後、
libpython3.9.so.1.0
$ sudo find ~/.pyenv -name libpython3.9.so.1.0
/home/user/.pyenv/versions/3.9.23/lib/libpython3.9.so.1.0
ではアプリケーションが参照できるディレクトリにシンボリックリンクを作成します。 ここでは、例えば
/usr/local/lib
$ sudo ln -s /home/user/.pyenv/versions/3.9.23/lib/libpython3.9.so.1.0 /usr/local/lib/libpython3.9.so.1.0
$ sudo ldconfig
#👇シンボリックリンクができているか確認
$ ls -la /usr/local/lib/
#...
lrwxrwxrwx 1 root root 62 8月 22 10:15 libpython3.9.so.1.0 -> /home/user/.pyenv/versions/3.9.23/lib/libpython3.9.so.1.0
あとはkicadが立ち上がればOKです。
FlatPakからKiCadをインストールする
手始めに
もしまだFlatPakを導入していない場合には、以下の簡易ガイドに従い、DebianにFlatPakをインストールするところから始めてみましょう。
なお著者のデスクトップ環境は
XFCE
かなり古いDebianでは、
Gnome
KDE
最近のDebianではプラグインを噛ます必要もなく、以下のコマンドだけで導入も一発OKです。
$ sudo apt install flatpak
$ flatpak remote-add --if-not-exists flathub https://dl.flathub.org/repo/flathub.flatpakrepo
flatpakが使えるようになったら、KiCadをインストールしてみましょう。
$ flatpak install --from https://flathub.org/repo/appstream/org.kicad.KiCad.flatpakref
こちらもインストールにはライブラリを含めて2GB程度の容量を必要としますので、ストレージには十分な空きがあるかを確認しましょう。
KiCadのインストールが完了したらなら、早速アプリを起動してみましょう。
flatpakからインストールしたものは、基本的にflatpakコマンドから登録されたアプリケーションIDで呼び出す方式になります。
$ flatpak list --app
Name Application ID Version Branch Installation
KiCadの開発者 org.kicad.KiCad 9.0.3 stable system
$ flatpak run org.kicad.KiCad
Note that the directories
'/var/lib/flatpak/exports/share'
'/home/**********/.local/share/flatpak/exports/share'
are not in the search path set by the XDG_DATA_DIRS environment variable, so
applications installed by Flatpak may not appear on your desktop until the
session is restarted.
flatpak越しに、KiCad(stable)がきちんと立ち上がることが確認できます。

KiCadのソースコードインストールする
※こちらはKiCad ver.6がstable当時のソースコードビルドの内容で説明しています。
ソースコードからインストールするメリットは、基本的にアプリケーションのソースコードビルドが上手く行けば、確実に実行できる点にあります。
ただし、デメリットとして、ビルドに必要な補助ライブラリを大量にインストールするという準備の手間が多少煩雑なのと、KiCadの場合にはビルドに必要なライブラリのサイズが15GBほどの容量になるので、貧弱なマシーンならストレージを割と圧迫します。
では、古いKiCadとそのライブラリ群を削除できたことを確認してから、ソースコードから最新のKiCadをビルド&インストールしてみましょう。
手順としては、公式の手順に沿って作業を進めていきます。
ビルド手順としては、以下に説明があります。
こちらに記述してある通り、ビルドする際に依存するソフトウェア類は結構多いです。
個別のソフトウェアのインストール方法は省きますが、ビルドに失敗するようならばその都度不足しているソフトウェア・ライブラリを継ぎ足してください。
例えば、
$ sudo apt install cmake debhelper doxygen \
libbz2-dev libcairo2-dev libglu1-mesa-dev \
libgl1-mesa-dev libglew-dev libx11-dev libwxbase3.0-dev \
libwxgtk3.0-gtk3-dev mesa-common-dev pkg-config \
libssl-dev build-essential cmake-curses-gui grep \
python3-dev swig4.0 dblatex po4a asciidoc \
python3-wxgtk4.0 source-highlight libboost-all-dev
libglm-dev libcurl4-openssl-dev libgtk-3-dev
libngspice0-dev ngspice-dev \
libocct-modeling-algorithms-dev libocct-modeling-algorithms-7.5 \
libocct-modeling-data-dev libocct-modeling-data-7.5 \
libocct-data-exchange-dev libocct-data-exchange-7.5 \
libocct-visualization-dev libocct-visualization-7.5 \
libocct-foundation-dev libocct-foundation-7.5 \
libocct-ocaf-dev libocct-ocaf-7.5 unixodbc-dev \
zlib1g-dev shared-mime-info
ライブラリを入れるだけでもディスクにそれなりの空き領域(〜15GB程度)が必要です。
次にKiCadのプロジェクトからソースコード全体をダウンロードし、ソースコードビルドを開始します。
こちらもディスク容量に空きが足りないと、ビルドが途中でコケます。
$ git clone https://gitlab.com/KiCad/code/KiCad.git
Cloning into 'KiCad'...
remote: Enumerating objects: 370838, done.
remote: Counting objects: 100% (2859/2859), done.
remote: Compressing objects: 100% (1038/1038), done.
remote: Total 370838 (delta 1879), reused 2747 (delta 1819), pack-reused 367979
Receiving objects: 100% (370838/370838), 740.42 MiB | 4.91 MiB/s, done.
Resolving deltas: 100% (302429/302429), done.
Updating files: 100% (9599/9599), done.
$ cd KiCad/
$ mkdir -p build/release
$ cd build/release/
$ cmake -DCMAKE_BUILD_TYPE=RelWithDebInfo ../../
-- KiCad install dir: </usr/local>
-- Enabling warning -Wsuggest-override
#...中略
-- Generating done
-- Build files have been written to: /home/****/KiCad/build/release
$ make
#...makeにはPCスペックによっては完了まで1時間以上の処理時間を要します
#...中略
[100%] Linking CXX executable ibis_proto
[100%] Built target ibis_proto
$ sudo make install
[ 1%] Built target metadata
[ 1%] Creating image archive /home/*********/KiCad/build/release/resources/images.tar.gz
#...中略
-- Installing: /usr/local/share/KiCad/demos/video/video.KiCad_sch
-- Installing: /usr/local/share/KiCad/demos/video/video.KiCad_pcb
-- Installing: /usr/local/share/KiCad/demos/video/video.KiCad_pro
#☆重要な仕上げ処理
$ sudo ldconfig
これでソースコードビルドが完了です。
なお、ここで公式の手順に書いてないですが、
make install
ldfonfig
KiCadの起動と動作確認
※こちらはKiCad ver.6がstable当時の動作確認状況になります。
先程ソースコードビルド&インストールしたKiCadを簡単に立ち上げてみます。
コンソールからの場合、
$ KiCad
として呼び出すか、スタートメニューからも呼び出すことも可能です。

初回の立ち上げでは、以前のバージョンのKiCadの設定ファイルが残っていればそれも読み込んで反映させることができます。

プラグインのアップデートも立ち上げ時に自動か、手動で行うかを最初にチェックします。

KiCadが立ち上がると、v5以前のバージョンと比べても、より洗練されたデザインのグラフィカルUIが表示されます。

執筆中の現在のベータ版の最新バージョンはv6.99で、「About KiCad」のページでリリースビルドの詳細が確認できます。

これで最新のKiCad v6のモダンなPCB基板設計の環境が無事インストールすることができました。
ビルド後に不要になったリソースフォルダの削除
KiCadをインストール後に、ソースコードビルドに利用済みの作業フォルダの容量をみると、
$ du -s ./*
12225332 ./KiCad
と、おおよそ12GB以上もディスクサイズを圧迫しています...。
よほど再利用の理由がなければ残しておく必要はないと思いますので、フォルダごと削除しておくと良いと思います。
$ rm -rf KiCad