KiCadに標準で搭載されているフットプリントライブラリは非常に豊富ですが、時には特殊な部品や独自のデザインに対応したカスタムフットプリントが必要になる場面があります。特に、複雑な形状や精密な配置が求められる場合、手作業での作成は困難を伴います。
そこで今回は、
外部のCADソフトウェアで作成したDXFファイルをKiCadにインポートし、オリジナルのフットプリントを作成する手順 を、日亜化学製のLED「NSSW157T」用のパッド作成を例に解説していきます。

参考|秋月電子通商 - NSSW157T

この手法を使えば、手書きでは難しい複雑なパッド形状も正確かつ効率的に設計できますので、ぜひ参考にしてみてください。


設計コンセプトと参考資料



今回作成するフットプリントは、日亜化学のLED「NSSW157T」をターゲットにします。メーカーの公式ドキュメントには、推奨されるはんだ付けパッドの形状や、放熱を考慮した設計に関する貴重な情報が記載されています。
データシートに記載されている推奨フットプリント形状も基本として抑えておくべきポイントです。

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出典: NSSW157Tデータシート

特に、メーカーの熱設計資料に示されているような、LEDを高密度で敷き詰めるためのパッド形状は非常に参考になります。

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出典: 日亜化学工業株式会社 LEDの熱設計資料

これらの情報を基に、CADソフトウェアでパッドの精密な作図から始めていきましょう。


CADによるパッド形状の作図とDXFエクスポート



まずは、フットプリントの元となるパッド形状をCADソフトウェアで作成します。
FreeCADInkscape など、DXF形式でエクスポートできる2次元CADであれば、使い慣れたもので問題ありません。
ここでは、FreeCADのスケッチャーワークベンチを利用して作図を進めます。

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メーカーの資料を参考に、必要な寸法でパッドの輪郭を描いていきます。作図が完了したら、
[ファイル] > [エクスポート] からDXFフォーマットでファイルを保存します。このとき、エクスポートオプションは基本的にデフォルト設定のままで大丈夫です。


KiCadでのカスタムフットプリント作成手順



DXFファイルの準備ができたら、いよいよKiCadでの作業に移ります。以下の手順で、インポートからフットプリントの完成まで進めていきましょう。

1. フットプリントエディタの起動と新規ライブラリの作成



KiCadのプロジェクト管理画面から、
「フットプリントエディタ」 を起動します。

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次に、作成したフットプリントを保存するためのライブラリを用意します。
[ファイル] > [新規ライブラリ] を選択し、今回は「My_Elem」という名前で新しいライブラリを作成しましょう。

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ライブラリテーブルの選択肢では、このフットプリントを他のプロジェクトでも使いたい場合は
グローバル を、現在のプロジェクトのみで使用する場合は プロジェクト を選択します。


2. 新規フットプリントの追加と命名



作成した「My_Elem」ライブラリに、
[ファイル] > [新規フットプリント] で新しいフットプリントを追加します。フットプリント名は、部品名と同じ「NSSW157T」としておきましょう。

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3. DXFファイルのインポート



いよいよ、先ほどFreeCADで作成したDXFファイルをインポートします。メニューから
[ファイル] > [インポート] > [グラフィックス] を選択してください。

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インポートオプションのダイアログが表示されたら、以下の2点を確認します。

  • グラフィックレイヤー: F.Cu (表面銅箔レイヤー)
  • デフォルトの線幅を使用: チェックを入れる
  • インポートされたグラフィックスアイテムをグループ化: チェックを外す
チェックを外す しておかないと、後の編集が非常に面倒になるので注意してください。

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インポートが完了したら、作業しやすいようにグリッドサイズを
0.1mm などの細かい値に設定しておくと良いでしょう。

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4. 原点の設定とポリゴンの作成



フットプリントの基準点となる
アンカー(原点) を設定します。右側のツールバーから [アンカーを配置] を選択し、図形の中心など、基準にしたい位置をクリックします。

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次に、インポートした線画を銅箔エリア(ベタ)に変換します。ベタ塗りにしたい閉じた領域の線をすべて選択し、右クリックメニューから
[選択からポリゴンを作成] を実行します。

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もしポリゴンが塗りつぶされない場合は、作成したポリゴンを右クリックして
[プロパティ] を開き、 「塗りつぶし」 にチェックが入っているか確認してください。

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5. パッドの配置とカスタム形状への統合



このままではただの銅箔エリアなので、電気的な接続点となる
「パッド」 としての機能を持たせる必要があります。
右側のツールバーから
[パッドを追加] ツールを選択し、SMDタイプのパッドを先ほど作成したベタエリア内に2つ配置します。パッド番号はそれぞれ「1」と「2」になるように設定しましょう。

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ここからがカスタムパッド作成の核心部分です。 まず、パッドとベタエリアを統合するために、パッドの1つ(例えばパッド1)を右クリックし、
[グラフィックス形状としてパッドを編集] を選択します。
次に、パッド1と、それに対応するベタエリアを選択した状態で右クリックし、
[グループ化] > [アイテムをグループ化] を実行します。
最後に、再度右クリックして
[パッド編集を終了] を選択すると、ベタエリアがパッドの一部として認識され、カスタム形状のパッドが完成します。もう片方のパッドも同様に作業を繰り返します。

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6. 最終確認



作成したフットプリントを保存し、回路図エディタでシンボルに割り当ててからPCBエディタで確認してみましょう。正しく表示され、配線ができればカスタムフットプリントの完成です。

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まとめ



今回は、外部のCADソフトウェアで作成したDXFファイルをKiCadにインポートし、カスタム形状のフットプリントを作成する手順を解説しました。

  • CADソフトウェアの活用: FreeCADなどで精密な2D図面を作成し、DXF形式でエクスポートする。
  • KiCadへのインポート: フットプリントエディタでDXFを F.Cu レイヤーに非グループ化状態でインポートする。
  • ポリゴン化: インポートした線画から塗りつぶしポリゴン(ベタ)を作成する。
  • パッドとの統合: 標準のSMDパッドを配置し、「グラフィックス形状としてパッドを編集」機能を使ってベタエリアとグループ化することで、カスタム形状のパッドを作成する。

この方法をマスターすれば、標準ライブラリにはない特殊な部品や、放熱性能を高めたオリジナルデザインのパッドなど、より高度な基板設計が可能になります。ぜひ、ご自身のプロジェクトで挑戦してみてください。