3Dプリンターフィラメント完全ガイド:PLAから特殊素材までの特性と選び方
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2025/09/14

3Dプリンターで高品質な造形物、特に機械部品のような精度や強度が求められるものを作るには、使用するフィラメントの素材特性を深く理解することが非常に重要です。世の中には様々な種類のフィラメントが存在し、それぞれに異なる物理的特性、推奨される用途、そして特有の長所と短所があります。
この記事では、3Dプリンターで利用される主要なフィラメントの種類を網羅的に解説し、それぞれのプリンティングで考慮すべき物理特性、推奨設定、適切な用途などを特集します。このガイドが、皆さんのプロジェクトに最適なフィラメントを見つけ出し、高品質な3Dプリントを実現するための一助となれば幸いです。
主要なフィラメントの種類と特性
それでは、一般的に利用される主要なフィラメントについて、それぞれの特徴を見ていきましょう。
PLA (ポリ乳酸)
主要な組成物質: ポリ乳酸 物理特性: 硬くて丈夫ですが、衝撃にはやや脆い性質があります。熱に弱く、約60℃で軟化し始めます。 推奨印刷設定: 印刷温度: 190-220℃ ベッド温度: 50-60℃ (または非加熱でも可) ファン速度: 100% 印刷速度: 40-60 mm/s
特長: 印刷が非常に簡単で、反りや収縮が少ないため、大きな造形物にも適しています。印刷時に甘い香りがするのも特徴です。 欠点: 耐熱性が低いため、高温環境下で使用する部品には向きません。また、屋外での使用は紫外線による劣化を引き起こす可能性があります。
ABS (アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)
主要な組成物質: アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの共重合体 物理特性: 高い強度、靭性、耐熱性を誇ります。アセトン蒸気で表面を滑らかに処理できるのも特徴です。 推奨印刷設定: 印刷温度: 230-260℃ ベッド温度: 90-110℃ ファン速度: 0-50% (反りを防ぐため低速推奨) 印刷速度: 40-60 mm/s
特長: 耐久性、耐衝撃性、耐熱性に優れており、機械部品や機能的なプロトタイプに適しています。 欠点: 印刷時の収縮が大きく、反りが発生しやすいです。そのため、エンクロージャー付きの3Dプリンターでの印刷が推奨されます。また、印刷中に特有の強い臭いが発生するため、十分な換気が必要です。
ASA (アクリロニトリル・スチレン・アクリレート)
主要な組成物質: アクリロニトリル、スチレン、アクリルゴムの共重合体 物理特性: ABSと同様の高い強度と耐熱性に加え、優れたUV耐性と耐候性を持ちます。 推奨印刷設定: 印刷温度: 240-260℃ ベッド温度: 90-110℃ ファン速度: 0-50% 印刷速度: 30-50 mm/s
特長: 屋外用の自動車部品、ガーデニング用品、看板など、紫外線や天候の影響を受ける製品に適しています。 欠点: ABSと同様に、印刷時の反りが発生しやすく、印刷には注意が必要です。また、ABSよりも高価な傾向があります。
PETG (ポリエチレンテレフタレート・グリコール)
主要な組成物質: グリコール変性ポリエチレンテレフタレート 物理特性: 高い強度と柔軟性を持ち、耐薬品性にも優れています。層間の接着が強力で、水密性の高い造形も可能です。 推奨印刷設定: 印刷温度: 220-250℃ ベッド温度: 70-80℃ ファン速度: 50-100% 印刷速度: 40-60 mm/s
特長: 印刷が比較的容易で、強度と耐久性も高いため、機能的な部品から食品用容器(※食品安全性はフィラメントメーカーの仕様を確認してください)まで幅広く利用できます。 欠点: 印刷中に糸引きが発生しやすい傾向があります。また、吸湿性が高いため、保管には注意が必要です。
ナイロン (ポリアミド)
主要な組成物質: ポリアミド (PA) 物理特性: 非常に強靭で、摩擦係数が低く、自己潤滑性があります。耐薬品性にも優れています。 推奨印刷設定: 印刷温度: 240-270℃ ベッド温度: 70-90℃ ファン速度: 0-50% 印刷速度: 30-50 mm/s
特長: 卓越した機械的強度と耐摩耗性により、高負荷のかかる機能部品の作製に適しています。 欠点: 非常に吸湿性が高く、印刷前にフィラメントを乾燥させる必要があります。保管も防湿ケースが必須です。また、ベッドへの定着が難しく、反りやすい傾向があります。
PC (ポリカーボネート)
主要な組成物質: ポリカーボネート 物理特性: 極めて高い強度、耐衝撃性、そして110℃以上の耐熱性を持ちます。光学的透明性も特徴です。 推奨印刷設定: 印刷温度: 260-310℃ (高温対応のホットエンドが必要) ベッド温度: 100-120℃ ファン速度: 0% 印刷速度: 20-40 mm/s
特長: ドローンのフレームや耐熱性が求められる機械部品など、過酷な環境下で使用されるパーツの作製に最適です。 欠点: 印刷が非常に難しく、高温の印刷環境とエンクロージャーがほぼ必須です。吸湿性も非常に高いため、徹底した乾燥と保管が求められます。
PP (ポリプロピレン)
主要な組成物質: ポリプロピレン 物理特性: 優れた耐薬品性と耐疲労性を持ち、非常に軽量です。 推奨印刷設定: 印刷温度: 220-250℃ ベッド温度: 85-100℃ (専用のビルドシート推奨) ファン速度: 50% 印刷速度: 20-40 mm/s
特長: 生体適合性があるグレードも存在し、医療分野での応用も期待されます。軽量で丈夫な容器や、繰り返し開閉する蓋などに向いています。 欠点: ベッドへの定着が極めて難しく、反りが非常に大きいため、印刷には工夫が必要です。
TPU (熱可塑性ポリウレタン) / エラストマー
主要な組成物質: 熱可塑性ポリウレタン 物理特性: ゴムのような弾力性と高い耐摩耗性を持ちます。硬度のバリエーションが豊富です。 推奨印刷設定: 印刷温度: 210-240℃ ベッド温度: 40-60℃ ファン速度: 50-100% 印刷速度: 15-30 mm/s (低速推奨)
特長: 柔軟で衝撃を吸収する部品の作製が可能です。 欠点: 非常に柔らかいため、フィラメントがエクストルーダー内で詰まりやすいです。ダイレクト式エクストルーダーでの印刷が強く推奨されます。
カーボンファイバー強化フィラメント
PLA、PETG、ナイロンなどのベース素材に、短く切断した
物理特性: 非常に高い剛性と強度を持ち、軽量です。熱による寸法変化が少ないのも特徴です。 推奨印刷設定: ベース素材に準じますが、やや高めの温度設定が推奨されます。 特長: ドローン部品、治具、高強度な機械部品など、軽量かつ高剛性が求められる用途に最適です。 欠点: 研磨性が非常に高いため、真鍮などの標準的なノズルを急速に摩耗させます。印刷には硬化鋼などの耐摩耗性ノズルが必須です。また、通常のフィラメントよりも高価です。
実践的な情報:選択、保管、印刷時の注意点
適切なフィラメントの選択方法
用途を明確にする: まず、造形物がどのような環境で、どのような目的で使われるかを考えます。「見た目重視の置物」なのか、「強度が必要な機械部品」なのか、「屋外で使うもの」なのかで、選択肢は大きく変わります。 プリンターの性能を考慮する: お手持ちの3Dプリンターが、印刷したいフィラメントの要求温度に対応しているかを確認しましょう。特にPCやナイロンなどの高温材料は、全金属製のホットエンドやエンクロージャーが必要になる場合があります。 扱いやすさで選ぶ: 初心者の方は、まずPLAから始めるのが最も確実です。慣れてきたら、PETG、そしてABSへとステップアップしていくのが良いでしょう。
フィラメントの保管方法
多くのフィラメント、特にPETG、ナイロン、PCは
保管: 使用しないフィラメントは、乾燥剤と共に防湿バッグや密閉容器に入れて保管するのが理想です。 乾燥: もしフィラメントが湿気を吸ってしまった場合は、フィラメントドライヤーや、低温設定にしたオーブンで数時間乾燥させることで、元の性能を取り戻すことができます。
印刷時の注意点
換気: ABSやASAなど、印刷中に有害なガスや臭いを発生させるフィラメントを使用する際は、必ず十分な換気を行ってください。 ベッドの定着: ガラスベッドにはスティックのりやケープ、PEIシートなど、素材に合った定着補助剤を使用すると、反りを抑制し印刷成功率を高めることができます。 ノズルのメンテナンス: カーボンファイバー入りなどの特殊なフィラメントはノズルを摩耗させます。定期的なノズルの点検と、必要に応じた交換を心がけましょう。
まとめ
今回は、3Dプリンターで利用される主要なフィラメントの種類と、その特性について詳しく解説しました。
PLA: 初心者に最適。印刷が容易で反りが少ないが、熱に弱い。 ABS: 高強度・高耐熱。機能部品向けだが、反りやすく印刷が難しい。 PETG: PLAとABSの良いとこ取り。強度と印刷しやすさのバランスが良い。 ナイロン/PC: 高性能なエンジニアリングプラスチック。極めて高い強度を持つが、印刷は非常に難しい。 TPU: ゴムのような柔軟性を持つ。低速での印刷とダイレクトエクストルーダーが推奨される。 カーボンファイバー強化材: ベース素材の剛性と強度を大幅に向上させるが、耐摩耗性ノズルが必須。 保管と乾燥: 多くのフィラメントは吸湿性があるため、適切な保管と、必要に応じた乾燥が品質維持の鍵となる。
それぞれのフィラメントの特性を正しく理解し、プロジェクトの要件に合わせて適切な素材を選択することが、3Dプリンターを最大限に活用するための第一歩です。ぜひ、このガイドを参考に、様々なフィラメントに挑戦してみてください。