[配線のDIY] 専用のノイズ低減用グラウンド線を作る


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2020/08/31

今回は、電子機器に乗ってくる微弱なノイズを低減するためのグラウンド環境作りの前知識を考察しようと思います。


概論〜アースとグラウンドの違い

通常、一般家屋や集合住宅用のコンセントには、アース付き・アースなしの2通りが混在しています。比較的新しい住宅の場合には、基礎工事の過程でアースが床下などへ施工されてる場合が多いのですが、古い日本家屋には無かったりします。

一般家庭においてもアースを接地する主な理由は、高電圧を必要とする電気機器が内部欠陥などで絶縁が不十分な状態になった場合、迂闊に触ってしまった人間の人体を通じて生命を脅かすほどの危険な漏電電流を防ぐための保護装置の役目があるからとされています。

設備や施設でアースを設置する安全基準に関しては、国の定める電気設備技術基準によって規定されています。そこでは電気機械の危険度に応じて、A種/B種/C種/D種のカテゴリーに区分され、その施工には電気工事の有資格者によって管理されています。

アース線の家庭内コンセントへの引き込み・施工は、主にD種設置工事にあたるケースがほとんどあると思いますが、原則として第二種以上の電気工事資格が必要であるため、未資格者は建物内へのアース配線の設置は出来ません。

ただ一般的な家電のような電気機器には関係のない性質ですが、アースには別の側面として
電気信号のノイズという観点から極めて重要な役割があります。

非常に微弱な電気信号を取り扱う場合、少しのノイズも許容できない場合があります。電気信号に乗ってくるノイズにも様様に原因がありますが、そのうち
コモンモードノイズと呼ばれるものがあり、後述しますがノイズが接地線を通じてやってくるタイプの厄介なノイズです。1つのアース線に複数の電子機器を接続するほど電源汚染が進んでしまい、そういった環境でのアース線は電気信号をデリケートに扱う必要のある電子機器を接続して使うことができません。

クリーン電源技術とは、コモンモードノイズで汚染された環境でもなるべく利用可能にして、いかに清浄な電気信号を内部で発生させられるか...を考える技術的分野です。弊社ではクリーン電源装置のノイズ解析・実験目的で、屋内電気配線とは独立した汚染環境の限りなく少ない地面に挿して、できるだけコモンモードノイズの少ない環境で利用しています。

アース(接地)線というと、どうしても法律上の設備安全基準や有資格者による施工義務など漏電事故対策のニュアンスが強くなるので、この記事では以降、低ノイズグラウンドグラウンド線と呼んでいます。通常のアース線とは違い電気信号のノイズ低減が目的であるため、接続先が地面でなくてもノイズ源にならない導体ならなんでも良いのですが、特殊なノイズカット装置はとても高価でそいそれと手を出せません。

実際はそうまでしなくても、地球上に存在する最も大きく安上がりなノイズの少ない導体は地球自身ですので、これを使わない手はないというだけのことです。


合同会社タコスキングダム|タコツボの中の工作室

電気記号による区分

上記の導入部分での内容で長々と語ってしましましたが、要約するとアースとグラウンドは全くの別物として取り扱わないといけません。違いを理解していないと、電気回路設計を正しく取り扱いできない(=ノイズ対策ができない)ことになります。

この記事で説明させていただくのは、以下の4つの記号です。

合同会社タコスキングダム|蛸壺の中の工作室

アース記号

図中の記号(a)は、アース棒による接地を示す記号で、いわゆる
アースといえばこの記号です。地面に打ち付けられた鋼の棒が記号のモチーフとなっていることからも分かるように、電気回路中の特定の接点と地面とを接続することを示す意味合いを持ちます。

ちなみにアースというのは和製英語なので通じず、あちらでは
グラウンドがアースを指す言葉になります。

保護接地記号

アース記号に丸で囲われている記号(b)は、漏電事故のような生命に危険を及ぼすような比較的大きな電流電圧を扱う機器に利用する記号です。洗濯機や冷蔵庫などの取説などで目にすることができます。

一般的にこの記号の描かれている電気機器には、接地義務が生じますので、きちんと家庭内のアース線に接続することを忘れないようにしましょう。

グラウンド(シャーシコモン)記号

記号(c)はグラウンド記号と広く呼ばれる記号で、電気回路図面で最も良く目にするタイプであろうと思います。

先ほど述べたように、英語ではアースという言葉がグラウンドでしたので、さらにこちらのグラウンドという言葉も和製英語にあたり、
シャーシコモンフレームコモン、あるいは単にコモンという言葉がそれにあたります。

導体の基準表面に接する状態をイメージした記号ですが、こちらは基準電位を地面へ接地しない(できない)場合に使用する記号です。例えば車載用電気機器の図面でシャーシコモン記号を使うと、自動車のボディ(=対象の中で最大の導体)に接続することを意味します。

信号グラウンド(シグナルコモン)記号

記号(d)は、信号グラウンド記号と呼ばれる記号です。

プリント基板上の回路図面に用いることが好ましいとされ、1つの設計において、複数のシグナルコモン記号を識別表記付きで配置することもできます。目的・性質の違う異なるコモンが存在する場合に、設計者にそれぞれ独立に扱って欲しい場合に利用されます。

設計者が、デジタル・アナログ・保護回路...色々と"含み"を持たせることができる反面、技術者の思想的な議論が行き過ぎてしばしばエキサイトな場面が起こるとかなんとか...

実は、今回の記事の主題において、ここでようやく説明したかったのがこのシグナルコモンです。ノイズ低減用のグラウンドというタイトルでしたが、個人的な電気設計上の思想からいうと
コモンモードノイズフリーなシグナルコモン、と本来は呼びたかったのですが、前置きがないと意味不明に捉えられるかと思った次第です。設計者のグラウンド解釈が入れられるということは、シグナルコモンの長所でもあり短所でもあります。

コモンモードノイズ

ある電気機器を考えたときに、内部の負荷は地面に対して持つ浮遊静電容量がわずかながら存在しています。大抵は無視しても影響のないこの浮動静電容量ですが、コモンモードノイズの理解においては重要です。

下の図では、最も単純な閉じた電気回路システムの1つを表しています。

合同会社タコスキングダム|蛸壺の中の工作室

コモンモードとは図のように、負荷に生じた無視できない浮動静電容量を通じて、シャーシコモン(グランド)から帰還する電流の成分と、アース(地面)を経由して帰還する電流の成分を指します。このコモンモードを通じて、シグナルコモンへと帰還する際に生じるノイズをコモンモードノイズと呼んでいます。

実際の施設内において、複数の電気回路システムがアースを共有する形で使用される状態であるため、大地を経由の弱い結合によってシステム間で相互に影響を与えている場合もあります。その場合のノイズ源の解析は非常に複雑になります。

一般の家電などでは電源の質が問われることはほとんどありませんが、AV機器などのデリケートな電気信号を扱う場合には、コモンモードノイズを除去しないとキレイな音が出せないなどの影響があります。

クリーン電源技術の掲げる最も大きな課題の一つは、この
コモンモードノイズの除去にあると言えます。


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実験用ノイズ低減グラウンド棒の利用方法

グラウンド棒には、市販のアース棒を利用します。

ノイズを伝達するのが目的なので金属棒であればなんでも良いのですが、野外に放置しても腐食に強く、入手もし易い電気伝導率の良い金属棒となると、やはりアース棒が手頃です。

ホームセンターやネットショップで購入することができます。

合同会社タコスキングダム|タコツボの中の工作室

購入したアース棒は端子処理されていないので、アース線になんらかの形で接続しないといけないのですが、今回はエーモンのギボシ端子を装着し、野外で抜き差しできるようにカスタムしてみます。

合同会社タコスキングダム|蛸壺の中の工作室

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ギボシ端子自体は、カーショップの電装品コーナーの方が品揃えが充実しているので、特定のサイズだけを購入したい場合にはそちらに赴かれた方が良いと思います。

ギボシ端子を使うことで、グラウンド棒付近で脱着可能な構造になりました。

合同会社タコスキングダム|蛸壺の中の工作室

合同会社タコスキングダム|蛸壺の中の工作室

早速、このグラウンド棒を持って事務所の敷地内に、家屋の床に敷設されているアース棒の場所から十分遠い軒下の地面にグラウンド棒を挿してみます。

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ギボシ端子で接続する形式にしているので、電気信号などを測定してノイズのレベルが気に入らなければ、すぐに抜いて別の場所に移せるようにしています。

近隣の家屋や、敷地に面する道路に立っている電柱近くにも、地中に埋もれていて見えないアース棒というものが結構潜んでいます。どのような土地でも除去できない微小なコモンモードノイズが存在しているかもしれませんので、ある程度のノイズ低減効果が得られたらそのポイントにグラウンド棒を挿して実験を行います。


合同会社タコスキングダム|タコツボの中の工作室

まとめ

今回は弊社流のノイズ低減用のグラウンド線の利用方法を記事にさせていただきました。

微弱なシグナルを検知するセンサーを扱う電子回路においては、まさに様様なノイズとの戦いになるのですが、そのノイズ低減対策には結構お金のかかる世界になります。

少しの工夫でも、お金をかけないノイズ対策になることもありますので、色々とアイデアを試してみると良い結果に繋がるかもしれません。
記事を書いた人

記事の担当:taconocat

ナンデモ系エンジニア

電子工作を身近に知っていただけるように、材料調達からDIYのハウツーまで気になったところをできるだけ細かく記事にしてブログ配信してます。